発刊:2019年10月7日
価格:2,500円(+消費税)
判型:B5判
頁数:128頁
ISBN978-4-907083-55-7 C0040

特集
日本の美しいむら再発見
水系散居村の歴史と景観

創刊25周年+80号を記念し、「日本の美しいむら」として知られる散居村を、植物学、歴史地理学、景観学など、さまざまな分野の専門的知見を結集し、「水系散居村」という視点で特集します。富山県の砺波平野や山形県飯豊町など、日本全国に残る散居村は、その源流を中世まで遡るり、その多くが、河川がつくりだす扇状地や、島の傾斜地などに立地し、水の恩恵を受けながら歴史を刻んできました。昨今、屋敷林の生物多様性や防水・防風・防雪の機能や環境対応性が評価され、エコの視点からも注目を集めている散居村にスポットをあて、世界遺産の文化的景観の価値を含む、知られざる散居村の歴史と魅力を紹介します。

目次

Part I 水系散居村の歴史と景観を読み解く
散居の生活を支える屋敷林 自然と共生するための役割と特性 岩槻邦男
砺波散村の歴史 古代から現代まで 歴史地理学から読み解く散村の変遷 金田章裕
散居の文化的景観 世界遺産に向けた維持存続 五十嵐敬喜

Part 2 各地の水系散居村の環境形成と文化
砺波平野の水田・水利システム 砺波発の水利用11の工夫 広瀬慎一
壱岐島の散居集落の空間と暮らし 江戸時代から続く壱岐型土地利用 加藤仁美
出雲平野、築地松の造形と機能 その根底にあるもの 長野和雄
胆沢扇状地の散居村ランドスケープ 人の目、鳥の目、カエルの目による視座 大澤啓志
黒部川扇状地の散居村と水 自然と一体化した豊かな生活空間 水嶋一雄
山形県飯豊町「田園散居集落」の歴史 日本の美しい村はいかにして生まれたか 伊藤賢一
中国四川の散居と文化 オルターナティブとしての院子的居住 小島泰雄
全国散居村連絡協議会の歩み 散居村を有する自治体の交流連携 遊部晶子

著者紹介
糸長浩司
日本大学生物資源科学部特任教授。環境と共生するあり方について研究し、飯舘村の支援活動などを行う。NPO法人エコロジー・アーキスケープ代表理事。1995年に日本のパーマカルチャー運動を始め、アグロフォレストリー「食べられる森」、エコビレッジの実践的研究を進める。長年、全国の農村地域での住民参画型地域づくりに取り組む。

岩槻邦男
1934 年兵庫県生まれ。兵庫県立人と自然の博物館名誉館長。日本植物学会会長、国際植物園連合会長、日本ユネスコ国内委員などを歴任。94 年日本学士院エジンバラ公賞受賞。2007年文化功労者。16年コスモス国際賞受賞。研究や著作を通じて、科学の細分化が進む時代に自然を統合的に理解することの重要性を説く。『生命系』(岩波書店)、『ナチュラルヒストリー』(東大出版会)など著書多数。

金田章裕
砺波市立砺波散村地域研究所長、京都大学名誉教授。1946年生まれ。京都大学教授、人間文化研究機構長などを経て、2018年より現職。専門は人文地理学。オーストラリア地域研究や日本古代の地理学研究に従事し、多数の著書を刊行(参考文献参照)。近著に、古文書や絵図、地形などから古代の壮大な土地計画の実態を探究した『古代国家の土地計画:条里プランを読み解く』(吉川弘文館、2017年)がある。

五十嵐敬喜
法政大学名誉教授、日本景観学会前会長、弁護士。「美しい都市」をキーワードに、住民本位の都市計画のありかたを提唱。神奈川県真鶴町の「美の条例」制定など、全国の自治体や住民運動を支援する。著書に『現代総有論序説』(ブックエンド)、『現代総有論』(法政大学現代法研所叢書)など。

広瀬慎一
富山県庄西用水土地改良区理事長。1943年富山県生まれ。富山県農地林務部、富山県立技術短期大学部学部長、専門は農業水利学。流水客土、パイプライン水田潅漑システム、近自然水路工法などの研究。となみ芸術文化友の会会長、砺波市教育会会長などを務める。

水嶋一雄
黒部川扇状地研究所理事長・所長、日本大学名誉教授。1947年富山県生まれ。日本大学教授などを経て、2016年より現職。専門は地理学。日本や外国の農山村地域の変容と環境保全による持続的発展の研究やパキスタン北部地域の少数民族などを研究。主な著書に『農業地域情報のデジタルアーカイブと地域づくり』など。社会活動として、全国山の日協議会理事、立山黒部ジオパーク理事などをつとめる。

加藤仁美
加藤仁美環境デザイン研究所代表。九州大学教授を経て現職。専門は地域計画、建築・環境デザイン、環境保全。建築学会、都市計画学会、農村計画学会等所属。『水の造形』(単著、九州大学出版会、1994年)、『図説集落』(共著、都市文化社、1989年)など。

大澤啓志
日本大学生物資源科学部教授。1968年横浜生まれ。日本大学大学院修了。専門は、景観生態学・緑地計画学。都市・農村・自然域のそれぞれの地域ランドスケープの上で、人間と緑・生き物が共に賑わうための方策を模索。著書に、『棚田学入門』(共著、勁草書房、2014年)、『絶滅危惧種の生態工学』(共著、地人書館、2019年)など。

伊藤賢一
山形県飯豊町観光協会専務理事。飯豊町役場勤務を経て現職。散居農家の6代目として、住民主体のまちづくりに取り組み、「美しい日本のむら景観コンテスト」などのプロジェクト事務局長を担い、「飯豊町屋敷林保存会会長」を名乗り活動をする。飯豊町自治会会長、飯豊町国際交流協会副会長、「農家レストラン エルベ」取締役などを務める。

長野和雄
京都府立大学大学院教授。専門は、建築・都市環境学、生気象学。地域気候と生活に関するフィールド調査のほか、温熱環境と人体影響に係る実験および理論研究、またこれらを横断した研究などに従事。著書に、『心理と環境デザイン』(共著、技報堂出版、2015年)など。

小島泰雄
京都大学人間・環境学研究科教授。1961年広島県生まれ。専門は、人文地理学・中国研究。中国各地でフィールド調査を行い、そこで集めた場所の記憶を基に、中国農民の生活空間の20世紀における変化を考察している。著書に、『変わり行く四川』(共著、ナカニシヤ出版、2010年)などがある。

遊部晶子
富山県南砺市役所ブランド戦略部農林課農産振興係副主幹。2018年から2年間、全国散居村連絡協議会事務局を南砺市が担当しており、2019年開催の「第14回全国散居村サミット」の企画・運営に携わる。